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南米ペルー 遺跡巡りの旅:第20回

チンチェーロ

 

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富士山頂と同じ高さにある村チンチェーロ

 聖なる谷を代表する三遺跡のうち、今回は最後のチンチェーロを訪ねます。チンチェーロ村はクスコの北西30km、標高3700mほどの所に位置し、オリャンタイタンボあるいはウルバンバ行きのバスが停まります。

 クスコを出発した路線バスは40分でチンチェーロ村に着きましたが、車掌に聞くと「遺跡はまだだ」と言います。村に入って3回ほど停車した後、ようやく「ここだ」というのでバスを降りました。

 道路から少し坂を上ると、係員がいて「入場券を見せろ」と言います。周遊入場券を見せると、「まっすぐ行って左に曲がれ」と言うのです。しかし、どこを曲がるか分からず歩き続けると、村の奥にどんどん入って行きます。村人が時々顔を出して「ブエノス・ディアス(おはよう)」と言うので、私も挨拶を返しました。

 のんびりした典型的なペルーの山村です。村人はフレンドリーで、風景も素晴らしいのですが、この時期は雨が多いせいで道は泥んこです。豚や羊は嬉しそうに転げまわっていますが、私のトレッキングシューズは泥まみれになりました。

 チンチェーロ村の遺跡はオリャンタイタンボやピサックと違って村と一体になっていて、村の外れに位置する教会近くにあります。小さな村ですから、適当に歩けば教会にぶつかるはずと思って歩いていると、間もなく教会の上の方に出ました。


チンチェーロ村の入り口に立つ先住民女性と遺跡のモニュメント。

村の坂道で休憩していた年配の女性。ここは富士山の頂上と同じ高さだ。

村の上から見た教会と田園風景。

 

インカの石垣を土台にした白壁の建物が並ぶ

   教会周辺には、インカの石垣を土台にした白壁の建物が並び、スペインの田舎の村に似ています。ここには元々インカの大規模な都市があり、スペイン人はインカの建物を壊して、その石垣の上に教会をはじめとした建物を建てたのです。

 教会の周囲には、神殿らしい緻密な作りの石垣が残っています。オリャンタイタンボやクスコの石垣にはかないませんが、白壁のコロニアル様式の建物とマッチして歴史を刻み込んだ風情を醸し出しています。

 この村も日曜市で有名で、市が立つ日に来れば村の特設市場だけでなく、教会前の広場にも大勢の物売りが店を広げるようです。しかし、平日のこの日は数人の先住民の女性たちがいるだけで、非常に静かでした。

 一般の観光客はにぎやかな場所を好むのでしょうが、私は静かで、住民の日常生活が見られる場所の方が好きです。


スペインの田舎の村のような教会周辺。土台の石垣はインカのものだ。

教会近くの神殿跡の石垣。並んでいるくぼみにはインカの貴人のミイラが祀られていたそうだ。

教会横のアーチを抜けるとインカの遺跡が広がる。

 

広場に展開するスペクタクルを望む支配者の椅子

  インカの神殿があった教会の北側には広場があり、その北側は谷を挟んで向かいにある緑豊かな丘を望みます。東には階段状の石垣があり、その上には自然石を加工した観覧席のようなものが作られています。地元の人は、インカの支配者が広場で行われる行事を見るために作られた椅子だと言っていました。

 インカの人たちは、こうした自然石を特別なものとして扱ったようですから、その可能性は高いでしょう。その石の椅子をみると、広場に展開するスペクタクルと、広場に面して設けられた長い石垣の上に並んで見物をしている観客たちを見下ろしていた支配者が想像できます。

 この石には観光客が触れないようにロープが張ってあるのですが、この時、地元の農民と言う年配の男性が来て、石に上ってしまったのです。そして、私に「ここにプーマがいるから上って来い」と言いました。

 どうやら椅子のところにピューマの彫刻があるようなのですが、立ち入り禁止区域ですから、私はためらいました。そこに遺跡の監視員が来て、おじさんに「あんた何なの? ガイドなの?」と詰問調で聞いたのです。

 しょぼくれた顔になったおじさんに、私が「何を言われたの?」と聞くと、「何でもねえよ!!」と言います。そして、悔し紛れの口調で「もっと凄いのを見せてやるよ」と言って歩きだしました。


教会横の石垣。石組みは少し荒い。

教会の北側に広がる長い石垣と広場。

広場が見渡せる場所に置かれた、椅子のように加工した巨石。

支配者の椅子から見た広場に面した石垣と教会。

 

巨大な自然石を加工した儀式の場に行く

 おじさんの後をついていくと、広場の東側に広がる段々畑の横を下の方に歩いていきます。見ると、そこに大きな自然石がありました。

 一目で、サクサイワマンの近くにあるケンコーと同じだと思いました。ケンコーは巨大な自然石を加工して宗教儀式を行う場所にしたものです。この岩はケンコーよりは小さいのですが、同じように様々な加工がしてあります。中をくりぬいて人が通れるような道を作り、表面を削って椅子のようなものも作っています。

 「ここは観光ガイドも知らないよ」とおじさんは得意気に言います。教会から少し遠いとはいえ、これだけの場所をガイドが知らないとは思えません。ただ、実際にここまで客を案内するガイドは少ないのでしょう。時間に限りがあるツアーでは、せいぜい教会と広場までしか見ないのだと思います。

 おじさんに「おかげでいいものが見れた」と感謝し、わずかばかりのお礼も渡しました。笑顔で「また、会おうな」と言うおじさんと別れて教会まで戻ると、雨が降り出しました。


丁寧な石組みで作られた段々畑が広がる。

丘の中腹に姿を見せる加工された巨大自然石。

綺麗に削って作ったトンネルには階段もある。

上から見た加工した石の通路。

石の椅子に腰掛けたおじさん。

 

雨上がりの美しい田園風景に感動

 雨が降り出すと、教会の広場にいた物売りの女性たちはあわてて商品をしまい、建物の軒下や石垣のくぼみに避難しました。

 私も軒下に隠れたのですが、雨が強くなったために、近くの土産物屋に入りました。最初、店の主人は土産を売りつけようと一生懸命でしたが、私に買う気がないと分かると、世間話を始めました。

 二人で日本とペルーの比較などをしていると30分ほどして雨がやみました。店を出ようとした私に「気を付けていい旅行しなよ」と主人は声を掛けてくれました。「ありがとう」と言って外に出ると、坂道の向こうに雨上がりの美しい田園風景が広がっていました。

 濡れた街路では民族衣装を着た女性たちが、まだ雨宿りをしています。物音さえほとんどしない雨上がりの夕刻、そこには、何物にもとらわれない、ゆったりとした時間が流れていました。私は、「この村に、いつかまた来たいな」と思いながら、坂道をゆっくりと降りて行きました。


教会のアーチの先に雨上がりの美しい田園風景が見えた。

湧き出す雲が漂う標高3700mの耕作地。

 

線

 

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