プエルト・エスコンディードへのバスの旅
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サンクリストバル・デ・ラス・カサス(サンクリ)で悪化した風邪が治らないこともあり、遺跡巡りの旅を一時中断して、温かい太平洋岸のビーチで静養することにしました。
メキシコ太平洋岸のビーチリゾートはアカプルコが世界的に有名ですが、私が行くのはそこから南に下ったプエルト・エスコンディードというビーチです。知名度が低いため、落ち着いていて、物価も安いというのが選択の理由です。サンクリの外国人バックパッカーの話では、もっと南に静かで綺麗なビーチがたくさんあるということでしたが、行きやすい場所がいいと思ったのです。ここには20年前に数日間滞在したことがあります。
サンクリからは長距離バスで13時間ほどかかります。夜9時発のバスは最初は満員でしたが、夜中にほとんどの客が降りてしまい、明け方に車内に残っているのは欧米人のバックパッカーが10人ほどでした。その人達もプエルト・エスコンディードの前のターミナルでほとんど下車してしまいました。サンクリのバックパッカーが話していた南のビーチへ、ここから行くのです。その後、数人の客を乗せた大型バスは海岸沿いの道をひた走り、8時ころにプエルト・エスコンディードのターミナルに到着しました。
プエルト・エスコンディードのビーチ沿いの道は20年前とほぼ同じです。途中にある観光案内所で安くて綺麗なホテルがないか聞くと、「向かいがいい」と言われました。受付にいた主人に部屋を見せてもらうと、前の家の屋根越しですがビーチが見え、部屋はシンプルですがリゾート感があって綺麗です。値段も安かったため、このホテルに滞在することにしました。
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宿泊したホテルの部屋から見た景色。木立の先に海が見える。
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サーフィンのメッカ、シカテラ・ビーチ
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ホテルの前にある海岸に出てみると、砂浜に小型の漁船が何隻か停泊していて、たくさんのペリカンが回りで餌を狙っています。プエルト・エスコンディードというのは「隠れた港」という意味ですが、基本的に周辺の漁民が利用する港なのです。ビーチの砂は黒っぽい茶色で、水はあまり綺麗には見えません。地元の人たちはここで水遊びをしていますが、あまり海水浴向きではないと思います。町の前に広がるこのビーチの名はプリンシパルというのですが、実は、プエルト・エスコンディードには、この他に二つのビーチがあります。
一つは、プリンシパル・ビーチの南東に隣接するシカテラ・ビーチです。この海岸線は非常に長く、海も綺麗に見えます。ただ、波が高いので海水浴より、サーフィンのメッカとして知られています。シーズンオフの冬の時期はリゾート客が少ないため静かで、海岸の砂丘でわずかな欧米の観光客が日光浴をしている姿が見られるくらいです。この時期、気温は30度前後で、ビーチリゾートとしてはちょうどいい感じです 。
シカテラ・ビーチに面する陸側には、リゾートホテルやレストランが軒を連ねています。プリンシパル・ビーチ前の古い町並みとは違って、欧米の観光客を呼びこむために新しく開発された町であるため、どこを見ても華やかでリゾート感が溢れています。レストランなどは、高級そうな店もたくさんありますが、リーズナブルでちょっと洒落た店もあり、休暇を楽しむ欧米人の若者たちで溢れていました。
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プリンシパル・ビーチの前にはペリカンがいっぱい。
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長い海岸線を持つシカテラ・ビーチ。オフシーズンは静かだ。
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シカテラ・ビーチの前にある美しく整備されたリゾート・タウン。
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シカテラのレストランで食べたメキシコ料理チラキレス。
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綺麗なビーチがあるマンサニーリョ
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もう一つは、プリンシパル・ビーチの西側にある岬を越えた所にあるマンサニーリョ・ビーチです。プリンシパルからは、岬の根本を横断すれば徒歩で30分ほどで着きます。
マンサニーリョは岩場が多い小さな湾になっており、陸側は民家がなく椰子林に覆われています。岩場の間に小さなビーチがあり、水は澄んで綺麗です。海に潜って見ると、沢山のカラフルな魚がいて楽しめます。また、椰子林の前にビーチチェアやベッドを並べた海の家が並んでいて、そこでお酒や食事を提供しています。平日は人が少ないので、ビーチのベッドに寝転んで、ビールなどを飲みながらラテン音楽を聞いていると最高のリゾート気分が味わえます。
ただし、日曜日となるとメキシコ人の家族連れが大挙して押しかけてきます。狭いビーチは子どもたちで大賑い、椰子林も岩場の崖も大人たちがバーベキューをしたり、飲んで騒いだりしますから、落ち着いて休むこともできないくらいです。ここに行くなら絶対に平日がいいと思います。
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隠れリゾートの雰囲気があるマンサニーリョ・ビーチ。
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ビーチのベッドで酒を飲みながら1日を過ごすのもいい。
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ダウンタウンのお勧めレストラン
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プエルト・エスコンディードは、気候もビーチもよく居心地はいいのですが、毎日の食事がいまいちパッとしません。そこで、宿の主人に「どこか安くて美味しいレストランはない?」と聞きました。すると、車でダウンタウンの中心部まで連れて行ってくれたのです。
海岸通りから車で10分ほどで街の中心部に着くと、宿の主人が「フシレーニャ」という店が美味しいと教えてくれました。大通りの歩道に面したその店は、屋根のあるオープンテラスのような感じでした。歩道に向いたバーベキュー用コンロでは肉やチョリソーなどが美味しそうに焼かれています。昼を少し過ぎた時間でしたが、お客が多く、賑わっています。値段も安そうだし、美味しそうな感じがして、テーブルに座りました。
すぐに花柄の民族衣装を着た女性がやってきて、「今日のお勧めは・・・・・」と、料理名を挙げていくのです。その中にモレ・ネグロがあったため、それを頼むことにしました。モレ・ネグロというのはチョコレートを使ったメキシコ独特の黒いソースのことで、大抵はチキンの胸肉やもも肉にかけて食べます。チョコレートといっても甘いわけではなく、様々なスパイスや食材と混ぜて作ることで深いコクと風味が出てきます。ただ、苦味がきついものもあり、食べてみないと美味しいかどうかわからない、結構難しい料理なのです。
運ばれてきた皿を見ると、真っ黒なモレ・ネグロソースがチキンの胸肉にたっぷりかかり、ライスが添えてあります。見てくれはいいとはいえません。チキンを切り、モレソースをたっぷりつけて口に入れると、スパイシーで深いコクのある複雑な味が口の中に広がりました。こんなに美味しい料理を食べたのはメキシコに来て初めてです。日本の料理で言うと深いコクのある黒カレーという感じです。ウエイトレスがこちらを見ていたので、笑顔で「ビエン(いいね)」と言うと、嬉しそうに笑顔を返してくれました。
この味に感激して別の料理も食べたくなりましたが、多くは食べれません。キッチンを見ると、女性が円形の金属プレートの上でトルティーヤを焼き、そこにチーズを乗せています。そこで、ウエイトレスにチーズがたっぷり入ったトルティージャ(ケサディージャと呼ぶ)を頼むと、焼きたてを1枚持ってきてくれました。少し大きめのトルティージャの中に溶けたオアハカチーズがたっぷり入っていて、口に入れると甘さと塩味とクリーミーさが絶妙に絡まった味が溢れます。これも感動的な美味しさでした。
またこの店に来たいと思いましたが、海岸通りから歩くには遠すぎます。タクシーで行こうかと迷いながらも、結局、二度と行くことはありませんでした。しかし、この次にプエルト・エスコンディードに行く機会がれば必ず行きたい店です。ちなみに、この後、オアハカやプエブラの町で何度か同じ料理を食べましたが、この店に匹敵する味に出会うことはありませんでした。
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店の前のコンロで肉やチョリソを焼いている。
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絶品の料理モレ・ネグロ。
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焼いたトルティージャにオアハカチーズをたっぷり乗せる。
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